呂祖謙『春秋伝説』二十巻

○両江総督採進本

宋の呂祖謙の撰。祖謙には『古周易』があり、既に『四庫全書』に収録した。祖謙は『左伝』に対して三つの研究書を残した。一つは『左伝類編』、一つは『左伝博議』、そしてもう一つは本書である。

『類編』は左氏を十九項目に分類したものだが、久しく伝本がない。佚文が『永楽大典』に散見するが、ほとんど見るべきものはない(*1)。『博議』は左氏伝の事件を逐一解説し、その得失を論評したものである。本書の主張は『博議』とほぼ同じだが、より詳細に論述されている。陳振孫の『書録解題』には、「祖謙は『左氏伝』に対して多くの研究を行ったが、文章には残さなかった。本書は祖謙の講義であり、それを門人が抄録したものだろう」とある。確かにその通りであろう。

朱子の『語録』には「祖謙は極めて博識だ。しかし巧妙に書き過ぎた嫌いがある」という。しかし祖謙の作った『大事記』に対して、朱子は「巧妙である」と言いつつ、「祖謙の指摘する公孫弘や張湯の狡賢さは、どれも人に羞恥の心を起こさせる云云」と言っている。ならば朱子のいう「巧妙」とは、筆鋒鋭利、事実の露見に余蘊なきことを指したものである。文が巧いために、ときとして是非を転倒させてしまうといった類のものではないのである。

『書録解題』は本書を三十巻とするが、この本はわずか二十巻である。明の張萱の『内閣書目』には、『伝説』四冊を載せるほか、別に『続説』四冊を載せている。陳氏の指摘する三十巻は、本書に『続説』十巻をあわせて言ったのであろう。このたび『続説』は『永楽大典』から新たに編集し直したが、首尾完具した書物であった。そのため『続説』は別著として『四庫全書』に収録することにした。

『四庫全書総目提要』巻二十七



(*1)『四部叢刊』続編に収録されている。

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