呉澄『春秋纂言』十二巻『総例』七巻

○両淮塩政採進本

元の呉澄の撰。澄には『易纂言』があり、既に『四庫全書』に収録した。本書は諸学者の解釈を掻い摘み、まま自身の意見を加え、その是非を論断したものである。冒頭に『総例』があり、経文を七綱八十一目に分類している。その中の天道と人紀は澄の創建である。他の吉・凶・軍・賓・嘉の五例は、宋の張大亨の『春秋五礼例宗』と類似しており、これを踏襲したものの如くである。しかし澄は前人の書を襲う人間ではない。そもそも澄の学問は金鶏と新安を兼ねたものだが(*1)、大亨の学問は蘇氏を宗としている。澄は他学派ゆえに大亨の書を見ておらず、そのため大亨の書と暗合しながら、それを知らなかったのであろう。しかしその分析は大亨に比べてより厳密になっている。

本書は経文の様式を勝手に改め、経の闕文についても方空の記号を補っており(*2)、経解の体裁として適切とは言えない。しかし澄は他の経書に対してもみな改訂の手を加えており、春秋だけのことではない。本書の読者は長所を取って短所を棄てればよいのである。

明の嘉靖年間、嘉興府知府の蔣若愚がかつて本書を刊行したことがあり、そのときは湛若水が序文を書いた。しかし歳月久しくして散佚し、世上に出回ることもほとんどなくなった。王士禎の『居易録』には「その書を見たことがない」といい、また「朱検討(*4)が呉郡の陸医士其清(*5)の家で見たことがある」とある。このため朱彝尊の『経義考』は本書を現存とするが、これですら一度見たきりのことである。この本は両淮地区から探し出されたものだが、恐らくは陸氏の本を抄したものであろう。久しく世に出回らなかったものが現れたのである。宝とすべき書物であることは言うまでもない。

『四庫全書総目提要』巻二十八



(*1)金鶏は陸九淵の、新安は朱熹の、蘇氏は蘇軾の一派を指す。
(*2)経の闕文とおぼしき箇所に□の記号を書き込むことを指す。
(*3)『居易録』巻13に「呉草廬于諸經皆有『纂言』、詩獨無之。『禮纂言』予家舊有刊本、『易纂言』康熙丙辰得之京師、亦刊本也。『書纂言』寫本、己巳冬初入都、借之黄虞稷兪障磨B獨未見春秋耳。朱檢討云:曾從呉郡陸醫其清家藏書見之」とある。
(*4)朱彝尊のこと。
(*5)清の蔵書家である陸其清のこと。

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