趙汸『春秋金鎖匙』一巻

○両江総督採進本

元の趙汸の撰。本書は「聖人の特筆」と「春秋の大例」の要点を記したものである。類似のものを集めて比較し、その異同を考究し、通則と変則を明らかにしている。属辞と比事を合わせて論じたものである。

本書の主旨はこうである。――春秋の初期は諸侯を抑えることに主眼があり、春秋の末期は大夫を抑えることに主眼がある。中頃は伯者である斉と晉の盟約に対し、それが尊王であるか否かによって正否を区分している、と。

本書の中、例えば「聖人は杞の爵を貶め、侯爵から子爵に降格した」(*1)と言うところや、「『毛伯、命を錫う』に対して、経文に『天王』と『錫命(命を錫う)』が記されているが、これは君が臣に与えたことを示す言葉である。一方、『召伯、命を賜う』に対して、経文に『天子』と『賜命』が記されているが、これは両者の合意で授与したことを示す言葉である」(*2)と言うところなどがある。これらはなおも旧説の間違いを襲ったものである。しかし汸の提示する書法は条理明白であり、程子のいう「春秋の大義は数十だが、輝かしきこと太陽や星々のようである」(*3)はこれに近いであろう。

宋の沈棐(*4)に『春秋比事』なる書物があり、本書と主張が似ている。恐らく汸は棐の著書を知らずに本書を作ったのであろう。しかし二書の体裁には違いもある。沈氏は詳細であるが、趙氏は簡明である。ならば両書ともに通行したところで問題あるまい。

『四庫全書総目提要』巻二十八



(*1)杞侯来朝荊人来聘杞伯来朝楚椒來聘杞子来朝楚薳罷来聘条。
(*2)天王使毛伯来錫公命天子使召伯成來賜命条。「春秋特筆、王命凡二。一稱天王、一稱天子、一書錫公命、一書賜命。襄王君臣、加恩於人望之魯。春秋之紀事、雖特筆也、亦絶筆也。惟其為特筆、故稱天王、稱錫命。稱天王者、天下之公也。以君與臣、曰錫。是王政之猶重也。惟其為絶筆、故稱天子、稱賜命。稱天子者、一人之私也。彼此相予、曰賜。是王政之已輕也。」とある。
(*3)『河南程氏集』巻9(伊川文集5)の与金堂謝君書に見える。
(*4)劉朔『春秋比事』の四庫提要を参照。

inserted by FC2 system