杜諤『春秋会義』二十六巻

(A)『読書志』巻3(王先謙校補本)

『春秋会義』二十六巻

皇祐年間に進士の杜諤が『繁露』、『規過』、『膏肓』、先儒異同篇、『指掌』砕玉、『折衷』、『指掌』議、『纂例』、『辨疑』、『微旨』、『摘微』、『通例』、『胡氏論』、『箋義』、『総論』、『尊王発微』、『本旨』、『辨要』、『集義』、『索隠』、『新義』、『経社』といった三十余家の学説を一つにまとめたもので、最後に自己の論評を付している。本書の学説の全てが聖人の旨を得たものとは思わないが、後学のものに〔本書に収められた〕古今の学説の異同を広く考えさせるならば、聖人の旨についても得るものがあろう。

(B)『書録解題』巻3(殿版)

『春秋会義』二十六巻

郷貢進士の江陽の杜諤献可の撰。本書は三伝および〔唐代の〕啖助・趙匡らの諸学者から〔宋代の〕孫氏〔復の『総論』『発微』〕や『経社要義』に至るまで、三十余家の学説を集めたもので、まま自己の意見を述べている。任貫の序文がある。嘉祐年間の人。

本書の性格は両書誌に指摘の通り、諸家の学説を経文の下に集めて自己の論断を加えたものである。北宋中頃に生きた学者の著書としては、かなり手広く学説を集めている。引用書目については『読書志』『書録解題』ともに少しずつ情報が不足しており分かり難い。詳細については煩瑣でもあり省略せざるを得ないが、要するに、本書は三伝注疏以来、唐の啖助らを経由し、北宋の孫復・王沿(箋義)・胡瑗(経社)らの学説を集めたもので、そのすぐあとに登場する劉敞・孫覚(経解)・蘇轍らの学説は含んでいない。なお『読書志』に列挙する書目は、先儒異同篇などの書名以外のものも並列しているので注意を要する。

現在のところ本書には2系統の板本が存在する。1つは12巻本で『永楽大典』から直接引き写したもの(正確には借りて写したもの)、もう1つは26巻本で12巻本をさらに補正して『永楽大典』欠落部分を増補したものである。写真は26巻本の本文冒頭部分である(筆者所蔵)。

春秋会義

あまり利用されることのない書物だが、北宋中頃までの学説を手広く集めているので、専門的な研究には重宝される。特に本書引用の学説のほとんどは原本が散佚しているので、事実上それらの学説は本書を通してのみしか理解し得ない。しかし南宋から元朝にかけて、本書の収録学説はあまり利用されなくなる。そのため宋から元、元から明へという重層的な流れで春秋学の理解を目論む人間には、あまり意味のない書物といえるかも知れない。しかし元朝にもまれに本書の引用学説を見るので、そのときにはやはり必要となるだろう。

ちなみに本書は『四庫全書』に収録予定だったらしいが、なぜか収録されなかった。本書は夷狄排撃を主眼とするものではなく、佚書の宝庫という点からも『四庫全書』に収録されるべき書物である。しかもかりに『四庫全書』への収録を見送るにしても、存目には何らかの言及があってしかるべきであろう。ところが存目にも本書への言及は一切ないのである。今のところ理由は定かでないが、一説には単なる四庫官の遺漏ではないかとされている。ただこの種の推定は資料的裏付けが難しく、あくまでも推測に止まるものである。

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