李石『左氏君子例』一巻『詩如例』一巻『詩補遺』一巻

○内府蔵本

宋の李石の撰。石には『方舟易学』があり、既に『四庫提要』に収録している。

春秋左氏伝には「君子曰」の文字が多い。これを林栗は劉歆が増加したものと言うが、もとより根拠のない学説である(栗の学説は『経義考』に引用されている) (*1)。これに対して石はこう考えた。――左氏伝には「君子曰」というものもあれば、「仲尼」「孔子曰」というものもある。これらはいずれも後学に褒貶の大法や聖人作経の宗旨を示したものであるから、それをまとめて「君子例」とした、と。そこで君子例全七十三条、さらに聖人の言葉三十二条をまとめたものである。ただし両者とも経文の解釈には及んでいない(*2)。

また左氏伝には詩経の引用を見るが、現在の詩経学説と異なるところがある。そこで左氏伝所載の一篇一句を蒐集して、その意味を明らかにし、〔詩経学の宗旨とされる〕断章取義の意味を探った。全一百六十八条、これを『詩如例』と名付けた。さらに左氏伝所載の筮詞や歌謠の三十八事を集め、これを『詩補遺』と名付けた(*3)。ただし経文の解釈に優れたところはない(*4)。

しかし南北両宋は春秋学上に於いて三伝排撃の時代であった。石はそのような世間の流行に背を向け、古代の学問に精を出したのである。ならばこのことは敬意を表してよいであろう。

もともと本書は『方舟集』に収録されていた。それを石の門人の劉伯熊が『左氏諸例』としてまとめたのが本書である。ならば石の原著の名ではあるまい。このたびの編集では各々旧来の書名に改め、さらに本文は『方舟易学』とともに『方舟集』にもどし、別書として『四庫全書』に収録することはしなかった(*5)。

『四庫全書総目提要』巻三十



(*1)『経義考』巻169(左氏伝)に「林栗曰:左傳凡言君子曰是劉歆之辭」とある。
(*2) 以上の文章は「左氏聖語例」冒頭の按語から取ったものである。「君子例」は左氏伝中の君子曰を集めたもの、「聖語例」は左氏伝中の仲尼曰や孔子曰を集めたものである。また「君子例」および「聖語例」ともに李石自身の解釈は一切なく、ただ左氏伝から君子曰や仲尼曰などの言葉を集めただけのものである。
(*3)四庫官の見たテキストは各書一巻本だったのだろうが、『方舟集』所収本(下注5を参照)は「左氏君子例」の後に「詩補遺」があり、「左氏詩如例」と別けられている。
(*4)左氏詩如例は詩を引いた後、その意味の解釈に及んでいる。
(*5)李石『方舟集』(四庫全書収録)巻21~23の「左氏詩如例」、巻24の「左氏君子例」を指す。「詩補遺」は「左氏君子例」の後に見える。またこれとは別に「左氏卦例」(巻20)がある。

inserted by FC2 system