『改造』断片語

高畠素之

(アンケート)

(題目)

近時貴衆兩院竝に既成政黨の行動に對して不滿を懷く者尠少ならず、何等か之を改造して眞に國民の爲の議會たらしめんと熟望するの聲野に充ち滿ち居れり、仍つて之が改造の根本に關して、先達の士に左の三個條の問題に就てご意見の發表を乞へるに、多數の御贊同を得たるは、我社同人の感謝措く能はざる所也。

  1. 貴衆兩院改造の第一歩は先づ何から着手すべきか。
  2. 既成政黨改造の第一着手は何よりすべきか。
  3. 勞働黨出現の際は如何なる資格ある人が首領として適任なるや又適任者は誰なりや。

北畠素之(1)

  1. 大選擧區制普通選擧の即時實施。
  2. 同前
  3. 北原龍雄君 識見、手腕、精力、辯舌、文章、風貌に於て、六千萬同胞中、勞働黨首領として同君の右に出づるものなしと確信す。

※『改造』第二卷第二號(大正九年二月)


新思想家の見たる東京市の根本改造と其の市長として最適任者

(題目)

  1. 東京市政は如何にして根本的革正を遂げらるゝか、尤も深刻に急所を百字以内で認めて下さい
  2. 後任市長には誰が最適任か、その推薦の理由も簡單に

□高畠素之

  1. 『根本的』は別として今回のやうな機會に警視廳や檢事局の諸公が思ひ切りて峻嚴な態度を徹底し得るものとすれば、それは誠に痛快でもあり、且正革の第一歩ともなるべきか。
  2. 安部磯雄氏、徳望學識ともに申分なし、手腕に於てエツキスなるも、局に立つたら相當やり得る人であらう。

※底本:『改造』第三卷第一號(大正十年一月)


一九二二年以後の趨勢

(題目)

一九二二年以後に於ける露、獨、支那、印度の將來及び世界に於ける社會運動、學術界の趨勢竝に之等諸方面に於て中心たらんとする人物に關し左記の各項に分ち思想界諸名士に意見を徴した處左の如き懇切なる回答を得た事を感謝する

  1. 一九二二年後に於ける露、獨、支那、印度の將來に關する御高見
  2. 一九二二年以後に於ける社會運動及學術界の趨勢竝に傾向に關する御高見
  3. 一九二二年以後に於ける世界學術界及社會運動に於ける中心人物は誰に歸するかその豫測

○高畠素之

  1. 露國益々自由主義(資本主義)化すべきも、獨逸は大體に於て現状を維持するなるべく、支那のことは知るに由なく、印度は危殆に頻すべきか。
  2. 幾多の紆餘曲折あるべきも、大體に於て進歩するものと見るの外はなかるべし。
  3. 學術界には種々あるを以て各其道の人ならでは分らず。學術と云はず運動と云はずたまには日本からも一流人物を出したきものにこそ。

※『改造』第四卷第一號(大正十一年一月)


素人の見たる現代創作竝創作家

(題目)

  1. 現代日本の創作及創作家に對する御感想を簡單に洩らして下さい。
  2. そして誰の作品を最もお好きになりますか、最近に御讀みになつたものゝうちで特に興味有り、または價値ありと思はれたものは何々ですか。
  3. 現代作家に對する注文、小言をもお願いします。
  4. 今後の文藝の傾向と、我國作家中にて誰が中心作家となるかの御豫測を御願します。

高畠素之

藝術家といふものは藝人であるから、理窟はわからず人格は下劣であつても(勿論、理屈もわかり、人格も上等なら尚更いゝが)、藝に特別の冴えがあり鍛へがあり力がある限りは本職として存在の理由を持つてゐる。素人藝ではいけない。アクのぬけない、土くさい理屈でごまかした樣な藝では、錢を出して見る氣にはなれない。さればと云つて、徒らに玄人ずれのした、そしてそれ以外に取りえのない源之助式の死藝も困りものだが、とにかく手に入つた藝でなくては、本當の客がつくものでない。近頃流行のプロレタ文藝といふものは、あれは一夜づくりの聲色屋の流す聲色ほどにも商品化してゐない。精々尾崎士郎の浪花節ぐらゐの所だから、客が錢を出さない。隨つて食へない。隨つてあせる。いくらあせつても、無い藝は出せないのだから、無藝屁理屈と來るわけだが、屁理屈となると却つて素人の方に達者なのがゐる位ゐだから本藝にはならない。どのみち食へないに定まつてゐるのだから、プロレタ文藝の方は早く足を洗つて本物のプロレタリアになつた方がいい(。)大きにお世話だ。

所謂ブルジヨア作家の中には、氣に入つたのが幾人かゐないわけではないが、最近の作物には大した感服させるものがあつたとは思はない。私は正宗白鳥が一番すきだ。此人のものだけは、文句なしに木戸錢を拂ふ氣になれる。藝に磨きがかかつてゐて、感じも深く鮮かであり、何人にもまねられない底光りを持つてゐる。強い自我を持ちながら、冷かに離れて見る妙機を捕へてゐる、から、表現に無理がなく絶えず普通と必然に則しつつ、充分の深みを示してゆける。此人ばかりは眞に名人であると思ふ。(未完)こんなに長く書いたら木戸錢をおごつてもよからう。


※『改造』第五卷第七號(大正十二年七月)


次期總選擧に於ける無産政黨の實勢力と其候補者

(題目)

  1. 次期總選擧に於て無産政黨は議會に如何の實勢力を克ち得るか
  2. 無産政黨の議員候補者として貴臺の適任として推薦する四五人

普選實施第一回の總選擧に於いて當然擡頭すべき無産政黨に關しての具體的豫想は單に興味のみの問題でないと信じ、右二問を諸家にお伺ひして得た回答を採録する。


○高畠素之

  1. 大したこともなからうと思ひますが、よく分りません。
  2. 山本實彦、吉田一、堺利彦、辻潤などの諸氏適任と存じます。

※『改造』第七卷第六號(大正十四年六月)


注記:

※句読点を増補した場合は、丸括弧内に入れた。
(1)北畠素之:ママ。

改訂履歴:

公開:2008/5/7
最終更新日:2010/09/12

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