第二次『局外』断片語

高畠素之


千駄木より

◆本號から不肖私が名實ともに編輯人となりました。いゝ歳をして雜誌の編輯でもあるまいと忠告をしてくれた老人もありますが、雜誌の編輯といふものは強ち若い人たちばかりの仕事ときまつた譯ではなし、此位ゐの歳ではまださう納まり返へるにも及ぶまいとの打算から、進んでこの重任をお引受け申すことにした譯であります。

◆然し私も政治(!)やら、實業(!)やら、著述やら、いろいろ急がしい仕事を控へてゐるからだでありますから、編輯の仕事ばかりに沒頭してゐる譯にも參らず、それに雜誌の編輯といふことに大した經驗がある譯でもないのですから、きツと人樣に笑はれるやうな、アクのぬけない編輯ぶりを發揮するかも知れませんから、其邊は何分よろしく御願ひ申上げます。

◆第一號は大ぶん賣れ行きがよかつたさうで、此分なら先づ大丈夫とあきらめて居ります。要するに勝敗は内容の如何によつて決せられるのでありますから、精々なかみを充實させて、ためになるものと面白いものを滿載することに努めたいと思つて居ります。

◆それにしても、諸家の寄稿が思の外多いのにはあきれました。雜誌の經營難は原稿の蒐集にありとは、かねがね玄人筋から言ひきかされてゐた所でありますが、私共の部落では流石に治外法權と見えて貴重な原稿が山積過重して居ります。

◆それで仕方なしにクヂ引きで當つたのから順ぐりに載せることにして居ります樣な次第で、運惡く外づれたのは先着ものでも後廻しにされます。左樣な次第で、まことにお氣の毒ですが、前號にお詫びして置いた安倍浩、三島泰雄、長井儀助諸氏の分は本號にも亦外づれました。其他にも二回つづけて外づれた人が少なからずあります。之等の諸家は次號には確つかり氣を入れて、クヂを引いて下さい。

◆前號に郵税二錢としたのは一錢の誤り、茲に訂正して置きます。尚編輯に關する通信は直接大衆社宛に願ひます。

◆創作欄に菊池、葛西、宇野三氏の力作を集めた手際は素人としてはエライだらう。次號からは、此方面に一層馬力をかけるつもりです。(素之)

※底本:第二次『局外』第二號(大正十二年六月)


本職へ

◆今朝(六月十四日)の朝日新聞を見ると、僕が十三日の國民軍事研究團創立協議會に出席して、委員の一人に指命されたやうに思はせる記事が出てゐる。これは僕にとつて聊か迷惑である。僕は其會に出席せよとの通知は受けたが、出席した覺えはない。從つてどんな事が協議されたかも知らない。僕は軍事研究團の趣旨には至極贊成だが、出もしないものを出たやうに思はせる記事を書かされては困るから、ちよつと辯解して置く。

◆いろいろ忙しい事ばかりあつて困る。それも本職で忙しいのなら、而立社の尻馬にのつて『多忙といふものは一種の快感を伴ふ』なんかと呑氣な事も言つて居れるが、僕のやうに本職を餘所にしての多忙はチト考へものだ。そろそろ足を洗つて本職に還元したい。

◆本職が停滯してゐる。『資本論』と『古代社會』は九分九厘迄完成したが、まだ『經濟學説大系』といふ重荷が殘つてゐる。それに資本論の延長として、來年一杯には何うしてもマルクスの『餘剩價値學説史』を完成しなければならない。かう考へて來ると、對露問題や軍事研究どころの騷ぎではあるまいぢやないか。(高畠素之)

※底本:第二次『局外』第三號(大正十二年七月)


注記:

行末の句読点は適宜補った。

改訂履歴:

公開:2007/8/19
最終更新日:2010/09/12

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