處女の貞操

高畠素之


例の婦人矯風會では、今度の議會に處女貞操法案なるものを提出するさうである。これは處女を脅迫、僞罔して情慾の相手たらしめる事を嚴重に取締ることを目的とするもので、島田三郎君等がその通過に盡力する筈だと言ふ。

『日本人は此問題に就て鈍感だから斯かる法律を作るにも骨が折れる』とは贊成者たる島田君の痛歎であるが、骨の折れるのは果して案の通過丈であらうか。處女の貞操保護は勿論結構な事だらうが、一體何うして取締るつもりであらう。處女を『僞罔』して貞操を賣らしめるものは、誘拐者や周旋業者や淫賣屋の亭主計りではない筈である。女の多くが金に『僞罔』されて動いて行く今日、男の多くが金で『僞罔』して女を得て行く今日、お目出度い基督教徒諸君は、何と何とを取締る心算だらう。惡周旋屋を取締らねばならぬなら、紳士紳商の大部分も、時にはまた矯風會邊のパトロンも、一層嚴重に取締らねばならぬ筈である。飲食店や遊戲場に集る女に、處女が果してどれだけあらう。處女の貞操は、飲食店や遊戲場を取締つた所で到底保護される筈はない。

問題は法案の制定だけではない。何うして斯う云ふ法案を嚴重に行ふかと言ふ所にある。基督教徒の清潔がりを嘲笑して見た所で仕方のない話だが、出來もしない事を騷ぎ廻つて得意になつてゐる、煙のやうな僞善だけは止めろと言ひ度くなる。


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