模型市場

高畠素之


農商務省が肝煎りの世帶の會では、會員に實際市場の有樣を知らせ、その利用法を學ばしめる爲めに、十二月の一日から世帶の會展覽會を開いた。陳列された日用品は、何れも市中の相場より安いと言ふ事を、會の當事者は自慢にしてゐるさうだが、利潤を見ない商賣なのだから、多少低廉な事に不思議はない。かう云ふ模型市場で、幾分低廉な貨物を提供した所で、實際市場の物價は何の影響も受けるものでない。

多數の市民の世帶は、模型市場で市場の利用法を學ばねばならぬやうな悠長なものでもなければ、わざわざ農商務省まで買ひ物に出掛けられる程氣永なものでもない。多數の世帶を樂にする爲めには、もつと手應へのある物價引下げ策を講じて貰ひ度いものである。凄まじい元氣で始められた世帶の會も、今の所では上流婦人の飯事遊びに過ぎないやうだ。此世智辛い世の中に、市場の利用法を知らぬ婦人があらうとは全く世は樣々である。


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