消費難

高畠素之


農商務省の陳列館で、世帶の會の婦人連が市場の利用法を研究してゐる一面には、目前の消費難に惱まされてゐる國民が澤山ゐる。

これもその一例であらう。兵庫縣西の宮から政府の物價政策を極端に批難し、『若し此上物價引下げ策を講じなければ云々』と云ふ脅迫状を、高橋首相の官邸へ送りつけた犯人があつた。

脅迫状とは甚だ不穩當であるが、斯う云ふ現象の表はれる事を見ても、今日の物價が平常であるとは言ひ得ない。只さへ不景氣な折からを、依然として物價の騰貴が續いてゐては、多數下層國民の生活は絶えず脅かされてゐなければならないのである。暴利取締奸商征伐の聲は一時盛に舉げられたやうだが、今に尚その効果は現はれて來ない。農商務省あたりは愚にも付かぬ世帶の會などの後押しをしてゐるより、徹底した市場取締法案でも制定するがいゝ。現在のやうな状態に放任して置く事は、さらでだに險惡な社會の空氣を、一層惡化せしむるものでなくて何であらう。


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