未成年者

高畠素之


未成年者禁酒法案が通過した。そして四月から實施されることゝなり、花見で浮かれてゐる未成年者や、雇主の振舞酒を呑んでゐる未成年者が、ドシドシ告發されてゐる。

花の上野で禁酒同盟會と日本勞働總同盟とが、酒を止めよ止めるなの宣傳競爭をしたとか云ふ今日此頃、禁酒が勞働階級にとつて迷惑千萬なことは、今更ららしく言ふまでもない。

然し驚かされるのは、カビの生えた此法案が、今時分通過したと云ふことである。廿年前ならば、未成年者は丁稚小僧の類を除いて、多く親がかりでゐられたのである。從つてこれ等の未成年者に禁酒を勵行せしめると云ふ事は、比較的容易でもあり、多少の理屈もあつた。

根モ正翁の未成年者禁酒法案が現はれてから今年で廿三年になるさうである。その間にも時勢は變化してゐる。今日の勞働階級の子弟は、成年に達する頃まで安閑として部屋住みになつてはゐられない。彼等が一本立ちとなる時間は次第に短縮されて來たのである。工場に事務所に一人前の勞働をしてゐる未成年者は、甚だ多數に上つてゐる。

一人前の勞働者になつてゐるからには、一人前の慰めも要るであらう。生産も消費も一切が自由である筈の今日、獨立の勞働者に消費の制限を強制するのは、少々遠慮して貰ひ度い。『教化の爲め』にしては未成年者も大人になり過ぎてゐる。少年の中に禁酒の風習を養ふ爲めだとあらば、未成年者の意義を時勢相當に變更して頂き度いやうである。


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