隷屬の宣傳

高畠素之


日本禁酒同盟會では、十月の初めに盛なる禁酒宣傳をやつたとの事である。酒は罪惡の源だとは、資本階級の手先きである宗教家達によつて、到る處の資本主義國で叫ばれてゐる言葉である。

勞働者をして一切の奢侈享樂から遠ざからしめ、質素な生活に甘ぜしむる事は勞働階級の一般的生活費を低減せしめ、從つて一般の勞銀を低下せしめる事になるのである。それ故、絶えず利潤の増加する事を望み、勞働力の搾取率を増加する事を念願としてゐる資本家階級にとつて、禁酒が罪惡と觀ぜられ、其の追唱者にとつて大聲叱呼す可き題目となるのは無理もない譯である。

然しながら禁酒禁煙と言ふが如き善良な習慣が生れて來る結果、勞働階級の隷屬は更に著しくなるのみである。現在に於いても、勞働者の生活はたゞ資本の増殖の手段としてのみ許されてゐるやうである。更にこれ以上の隷屬を強ひらるゝならば、人間としての生活、己自身の爲めの生活は、全く勞働者の上から失はれて了うであらう。

善良なる宗教家達の運動の裏には實に斯くの如き隷屬強要の欲求が含まれてゐるのである。


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