附録 収奪者の収奪

高畠素之(譯)


『此の變化行程が、深さに於ても廣さに於ても、舊社會を十分に分解すると同時に、勞働が無産階級化し、其の勞働諸條件が資本化すると同時に、資本家的生産方法が自立すると同時に、勞働の尚それ以上の社會化、及び土地その他の生産機關の、社會的に利用される、即ち共同的なる、生産機關への、尚それ以上の轉化、隨つて又た私有權の尚それ以上の収奪は、一箇の新形態を受ける。斯くて今や収奪せらるべき者は、もはや自營的勞働者でなく、多くの勞働者を搾取してゐる資本家である。

『そして此収奪は、資本家的生産その者の内在的理法の作用に依つて、資本の集中に依つて行はれる。一人の資本家は常に多くの資本家を打ち殺す。そして此集中と、或は少數資本家に依る多數資本家の収奪と竝んで、勞働行程の、絶えず擴大する規模に於ての協業的形態が、科學の意識的なる技術的應用が、土地の秩序的利用が、勞働要具の只だ共同的にのみ使用し得る勞働要具への轉化が、すべての生産機關をば結合的・社會的勞働の生産機關として使用することに依る其の節約が、すべての國民が世界市場の網に絡まることが、そして又それと共に資本家制度の國際的性質が、ますます發達する。斯くの如き變化行程の總ての利益を私し獨占する大資本家の數が絶えずますます減少すると共に、窮乏、壓迫、奴隷状態、壞頽、搾取などの分量はますます増大する。然しまた之れと共に、絶えず其人員を加へ、そして資本家的生産行程それ自體のカラクリに依つて訓練され、結合され、組織だてられる所の勞働階級の反抗が、益々發達する。斯くて資本の獨占は、其獨占と共に、又其もとに、開花繁榮した生産方法の、桎梏となる。生産機關の集中と勞働の社會化とは、遂に、それが資本家的外殻と一致することの出來ぬ點に達する。茲に於て、資本家的外殻は破裂する。資本家的私有權の亡びの時は鳴る。収奪者は収奪される。』(『資本論』第一卷第六版七二八頁)



注記:

※参考に改造社版『資本論』第1巻第2冊の「収奪者の収奪」(第1巻第24章の一部)を掲げておく。


この轉形行程が、舊來の社會をば深さに於いても廣さに於いても十分に分解させてしまふや否や、勞働者がプロレタリアに轉化され、彼等の勞働條件が資本に轉化されるや否や、資本制生産方法が自己の脚を以つて立つやうになるや否や、勞働の更らに進んだ社會化、及び土地その他の生産機關の、社會的に利用される所の、隨つて共同的たる所の、生産機關への更らに進んだ轉化、隨つてまた、私有者からの更らに進んだ収奪は、一の新たなる形態を採るやうになる。今や収奪を受ける者は、もはや自家經營的の勞働者ではなく、多くの勞働者を搾取する所の資本家なのである。

この収奪は、資本制生産それ自身の内在的法則の作用たる資本の集中に依つて完成される。つねに一人の資本家が多くの資本家を打ち殺すのである。この集中、換言すれば少數資本家に依る多數資本家からの収奪と相竝んで、勞働行程の益々大規模となりつつある協業的形態、科學の意識的なる技術的應用、土地の計畫的利用、勞働要具の共同的にのみ利用し得べき勞働要具への轉化、凡ゆる生産機關を結合的社會的なる勞働の生産機關として使用することに依る節約、凡ゆる國民が世界市場の網に絡められるといふ事實、それと共にまた資本制度の國際的性質、等──此等一切の事象が發達して來るのである。この轉形行程に伴ふ一切の利益を横奪獨占する大資本家の數が益々減少すると同時に、窮乏や、壓迫や、隷從や、壞頽や、搾取などの量が益々増大して來る。が、それと共にまた、資本制生産工程それ自身の機構に依つて訓練、統合、組織される所の、不斷に膨大しつつある勞働者階級の反抗が増進する。資本獨占は、それと共に、またその下に、開花繁榮した生産方法の桎梏となる。生産機關の集中と勞働の社會化とは、その資本制的外殻とは兩立し難き點に達する。資本制的外殻は破裂する。資本制的私有の終焉を告ぐる鐘がなる。収奪者が収奪される。

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