『社會主義と進化論』売文社・大衆社・大鐙閣版序文

高畠素之


『社會主義と進化論』と云つても、敢て社會主義を説く譯ではない。又た社會主義と進化論の比較對照を試みやうと云ふ譯でもない。進化論に關係した問題を比較的多く取扱つてゐるから、それで書名に進化論の一語を加へたものと考へて頂けば不足はない。

然し同じ進化論に關係した問題でも、私は成るべく社會主義思想に聯絡あるものを多く撰ぶことにした。進化論以外の題目に於いても其通りである。此意味に於て書名に『社會主義』の一語を加へたこともまんざら無意義でない。

然しそれよりも重要なる理由は、『社會主義の立場から』と云ふことである。私は社會主義の立場から、進化學者の進化説を論じ、哲學者、社會學者のそれぞれの學説の要點を批評紹介した。

此う考へて見ると、本書を『社會主義と進化論』と題した譯も強がち無意義でないことが分る。要するに、本書は一箇の合財袋である。始めより聯絡を付けて書いたものではない。時々思ひ立つて書いたものを掻き集めて見たら、何となく全體に脈絡がありさうに思はれたと云ふ位ゐの程度で、全然無聯絡のものでないと云ふ事にして頂きたい。

本書は固より創作ではない。さればと云つて、全然反譯でもない。忠實に反譯した所もある。全然(直接には)外國の種本に依らない箇所もある。何もかも著者の獨斷で取捨し手加減したのだから、反譯と云ふには餘りに自力的で、創作と云ふには餘りに他力的である。然し左の三書だけは、本書の種本として特に重きを成したものであることを斷つて置く。

Arthur.M.Lewis,Evolution Social and Organic.(リユイス著『社會的及び有機的進化』)
Arthur.M.Lewis,Ten Blind Leaders of The Blind.(同上『盲者の手引きする十人の盲者』)
Karl Kautsky,Vermehrung und Entwicklung in Natur und Gesellschaft.(カウツキー著『自然及び社會に於ける蕃殖と進化』)

大正八年三月

著者 識

inserted by FC2 system