『資本論解説』附記

凡例

  • 底本には改造社版『改訳資本論解説』を利用した。
  • 底本の誤植は、『改訳資本論解説』『初版資本論解説』によって訂正した。
  • 底本には改造社版『改訳資本論解説』訳者序のみ附されているが、今飜訳二種の序文及び初版附載福田徳三の序を冒頭に附した。また底本にない初版附載の凡例も附載した。
  • 仮名遣いは底本に従い歴史的仮名遣いとした。
  • 底本の漢字はJIS第二水準以内の漢字は旧字体を利用し、それ以外は新字体で代用した。
  • 底本の踊り字、合字は通用文字に改めた。
  • 底本の漢数字はアラビア数字に直した。
  • 底本の傍点は太字に直した。
  • 底本の横文字は、100+10の如く色で区別した。
  • 底本の分数は並列標記に直した。
  • その他、ブラウザ表示のため表枠・インデント等、適宜記載を変更した。

(1)『資本論解説』覚書

  • (A)原著書第十三版
    • (1)『マルクス資本論解説』(売文社,大正八年五月)
    • (2)『マルクス資本論解説』(三田書房,大正八年五月)
  • (B)原著書第十九版
    • (3)『改訂資本論解説』(而立社,大正十三年七月)
    • (4)『改訳資本論解説』(アテネ書院,大正十四年六月)
  • (C)原著書第十九版
    • (5)『改訳資本論解説』(改造社,昭和二年三月)

『資本論解説』は、カウツキーの著書『カール・マルクスの経済学説』(Karl Marx's Okonomische Lehren von Karl Kautsky)の翻訳書。本書は幾度も改訂されたが、(A)の(1)(2)および(B)の(3)(4)は基本的に同じもので、大きい改訂が加えられたのは(A)(B)(C)の三度である。(5)が結果的に最終改訂版となった。底本は、当初は原著の第13版(1910年)であったが、改訂版(最終改訂版も同じ)において第19版(1920年)に変わった。

(A)の凡例にある通り、第1篇第1章~第3篇第5章は、もと『新社会』(大正6年正月~同8年3月)紙面に連載されたものである。同凡例の最後に「官憲に対する遠慮の上から、削除を余儀なくされた点が数箇所ある。然し其場合には必らず、括弧して原文何行削除の旨を断つた」とある。しかし時代が変わったこともあり、(C)の改訳版では削除された部分も翻訳されている。また本文中の小見出しは高畠氏の手になるもので、原著には存在しないものである。

高畠氏の翻訳した第19版は、『資本論』第1巻を解説したもので、第2巻と第3巻の大部分には及んでいなかった(ただし第2篇第4章「余剰価値と利潤」で第3巻について若干触れている)。しかし高畠氏の没後、原著書の25五版が出版され、本文の改訂とともに『資本論』第2巻および第3巻の解説にも及ぶこととなった。原著書25版の「序文」によると、これはカウツキーの息子の手になるものであるという。

高畠訳『資本論解説』は日本で広く読まれたが、上述のごとく『資本論』第2巻と第3巻に解説が及んでいないこともあり、高畠氏の没後に第25版がいくつか訳出されることになった。いま管見の限り列挙すると以下の通り。

  1. 佐多忠隆『新版資本論解説』(改造社,昭和7年)
  2. 大里伝平『資本論解説』(岩波文庫,昭和8年)
  3. 佐藤栄『資本論解説』(彰考書院,昭和21年)
  4. 金子修一『資本論解説』(双文社,昭和27年)
  5. 相田慎一『マルクスの経済学説―『資本論』入門―』(丘書房,平成11年)

佐多訳・大里訳・佐藤・金子訳はともに第25版を底本に選んでいるが、最新の相田訳のみ、第8版を底本に選んでいる。相田訳は全書にわたり初版との綿密な対校を附している。なお相田氏が第8版を底本に選んだ理由は、カウツキーが本質的な改訂を加えたのは第8版であったからだという。

(0)『新社会』での連載状況

○大正六年

第一章 商品生産の性質(第三巻第六号,正月)
第二章 価値(同八号,三月)
第三章 交換価値(同八号,四月):八号は二回ある
第四章 商品交代
第五章 価格(同九号,五月)
第六章 売買
第七章 貨幣の流動
第八章 鋳貨、紙幣
第九章 其他の貨幣職分(同十号,六月)
第十章 資本とは何ぞや
第十一章 剰余価値の源泉(同十一号,七月)
第十二章 商品としての労働力(同十二号,八月)
第十三章 生産行程(第四巻第一号,九月)
第十四章 価値生産に於ける資本の作用
第十五章 労働力搾取の程度(同二号,十月)
第十六章 剰余価値と利潤(同三号,十二月)

○大正七年

第十六章 剰余価値と利潤(承前)(同四号,正月)
第十七章 労働日(同五号,二月)
第十八章 ギルド組合員の剰余価値と資本家の剰余価値
第十九章 相対的剰余価値(同六号,三月)
第十九章 協業(同八号,五月):第廿章の誤
第廿一章 工場手工業の起原及び要素
第廿二章 工場手工業の二原形(同九号,六月)
第廿二章 機械の発達(同十号,七月):第廿三章の誤
第廿四章 生産物に対する機械の価値転移
第廿五章 労働者に対する機械の直接影響(同十一号,八月)
第廿六章 労働者の『教育者』としての「機械」
第廿七章 機械と労働市場(第五巻第一号,九月)
第廿八章 革命的働因としての機械(同二号,十月)
第廿九章 労働力の価格及剰余価値の分量変化
第卅章 労働価格の賃銀化
第卅一章 時間賃銀(同三号,十二月)
第卅二章 請負賃金
第卅三章 労働賃銀の国民的差異
第卅四章 資本所得

○大正八年

第卅五章 単純再生産(同五号,正月)
第卅六章 剰余価値は如何にして資本となるか
第卅七章 資本家の節制
第卅八章 蓄積の範圍に影響する労働者の節制及び其他の事情(同六号,二月)
第卅九章 『賃銀の鉄則』
第四十章 産業予備軍(同七号,三月)

(1)売文社版資本論解説

表紙、奥付とも「マルクス資本論解説」。福田徳三氏の序文(大正八年四月十日)を冠し、表紙に「法学博士福田徳三氏序/高畠素之訳/カウツキー原著」とある。凡例を付す。奥付には、大正八年五月十六日印刷、同十九日発行とある。以下の而立社版には売文社版とこの版とを区別せず、「旧版」と称している。底本は第十三版(1910年)。詳細は凡例を参照。

  • 著者:高畠素之
  • 発行者:北原龍雄
  • 印刷社:天沼藤太郎
  • 発行所:売文社出版部

(2)三田版資本論解説

(1)売文社版資本論解説と同じもの。タイプ者が閲読したものは、大正九年一月一日十一版。

  • 著者:高畠素之
  • 発行者:北原龍雄
  • 印刷社:天沼藤太郎
  • 印刷所:製英含印刷所
  • 発行所:三田書房

(3)而立社版資本論解説

奥付、内題に「改訂資本論解説」。内題に「カーツ・カウツキー著/高畠素之訳」、「大化会蔵版/而立社発行」とある。序文は「訳者序」として高畠素之氏の自序を附す。底本は第十九版(1920年)。「旧版」を大幅に改訳。詳細は「訳者序」を参照。奥付に依ると、大正十三年七月十八日印刷、同二十二日発行。タイプ者が閲読したのは初版。

  • 訳者:高畠素之
  • 発行者:大化会出版部/代表者 高畠素之
  • 印刷者:佐藤磨
  • 発行所:株式会社而立社

(4)アテネ書院版資本論解説

奥付、内題に「改訳資本論解説」。内題に「カール・カウツキイー著/高畠素之訳」、「アテネ書院」。序文は「訳者序」。内容は而立社版と同じだが、紙型は異なる。序文の日付も同じ。原著書などは而立社版と同じ。奥付に依ると、大正十四年六月二十日印刷、同廿五日発行。タイプ者が閲読したのは初版。

  • 訳者:高畠素之
  • 発行者:秋田忠義
  • 印刷者:佐藤磨
  • 発行所:明治印刷株式会社
  • 発行所:アテネ書院

(5)改造版資本論解説

奥付、内題に「改訳資本論解説」。内題に「カール・カウツキイー著/高畠素之訳」。序文は「訳者序」として高畠素之氏の自序を附す。底本は第十九版(1920年)。「大化会以来の改訳版を基礎として、それに数百ケ所の訂正を加へ」たもの。詳細は「訳者序」を参照。奥付に依ると、昭和二年三月五日改訂版印刷、同十日改訂版発行。タイプ者が閲読したのは第三十六版(昭和五年廿五日三十六版)

  • 著者:高畠素之
  • 発行者:山本美
  • 印刷者:椎名昇
  • 発兌:改造社
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