夫學文之大也、致中和位天地焉、萬物育焉。此學問之極功、聖人之能事也。然處士伏於下而好學也、雖未足及於聖賢日躋知至之萬分、而窮理明義、存心養性、而美其身、不惟脩齊一身一家而已、道照理活矣。三綱頼崇、人心頼正、國本頼建、國勢頼張、禮讓惟篤、暴悍惟縮、廉介惟著、節義惟白、君子惟保、小人惟畏、善惡惟定、眞贋惟判也。是乃處士學業之所至、日夕講貫、舉止涵泳之力、其功用所致、奚不然哉。豈以用行為先乎、以舍藏為後乎。其所歸同、不異等也。但道明學正、則天道顯、人道立矣。學術不正、講求弗粹、則理義不著、人軌莾然、四維弛廢、世事濛濛焉。是天生道、人成之。學文功化、嗚呼大哉。古聖賢以得託道之人不獲、大為喜慼、不為此故耶。
維秦山翁自幼好學、研精覃思、堅苦衛道、專志本綱常、且優游於四家門、而神探瓊矛之幽秘、闡世蒙解、儒遡程朱之淵源、入未發室、暦受貞享骪法、分度曰密合、九野蓂莢屮焉。日用之際、本神翼儒、動靜恭謹、實蹈著實、其接人執事る、禮節情厚、坦坦有餘裕。其生也、葦晦泥土、培厥根、其死也、間韻升天、清爽降人。眞為學為己人歟。一世慍乎群小、不胥以穀、重坎厄會、殆坐于厥半。此亦章子厚所能作耶。嗣子垣守能繼其志、不墜家聲、不交塵俗、浴五十鈴清流、裝神路山紅錦、專美於我有郷焉。幸哉有子如此。
有家集、名秦山集。盈篋四十九卷、繕寫既成矣。以僕陪侍於師席、星霜經多、令僕為序文字。以謂徒有從遊日久之富實、乏麗澤時習之得、而不能展盡其學脈旨訣、囊裏底蘊也。而有眼下扣玄門、賜啓發、教誨諄諄其人在、予何憂之。抑詩賦徳之頌也。言論書説徳之府也。將來披緗帙、玩染翰、則胸次灑落、風采志氣、隱然自可見、而百年之後論定焉。誠速依別觀光之最首也。暫時以管見識其梗槩、以償屬示之責云。顧財老諸生、耄慮易言、卑文小筆、焉可為無愧不稱乎哉。君請圖之。
享保戊申二月神吉日
美代重本謹序
秦山集序
夫れ學文の大なる、中和を致して天地位し、萬物育す。此れ學問の極功、聖人の能事なり。然れども處士下に伏して學を好む、未だ聖賢日躋知至の萬分に及ぶに足らずと雖も、窮理明義、存心養性して其の身を美くする、惟だ一身一家を脩齊するのみならず、道照り理活きぬ。三綱頼みて崇く、人心頼みて正に、國本頼みて建ち、國勢頼みて張り、禮讓惟れ篤く、暴悍惟れ縮み、廉介惟れ著れ、節義惟れ白く、君子惟れ保ち、小人惟れ畏れ、善惡惟れ定まり、眞贋惟れ判るなり。是れ乃ち處士學業の至る所、日夕講貫、舉止涵泳の力、其の功用の致す所、奚ぞ然らざらんや。豈に用行を以て先と為さんや、舍藏を以て後と為さんや。其の歸する所同じく、等を異にせざるなり。但だ道明らかに學正なれば、則ち天道顯に、人道立つ。學術正ならず、講求粹ならざれば、則ち理義著らかならず、人軌莾然として四維弛廢し、世事濛濛たり。是れ天道を生じ、人之を成す。學文功化、嗚呼大なるかな。古の聖賢、道を託するの人を得ると獲ざるとを以て大いに喜慼を為すは、此が為の故ならざらんや。
維れ秦山翁、幼より學を好み、研精覃思、堅苦衛道、專志して綱常を本とし、且つ四家の門に優游し、神は瓊矛の幽秘を探り、世の蒙解を闡き、儒は程朱の淵源を遡り、未發の室に入り、暦は貞享の骪法を受け、分度曰に密合し、九野蓂莢屮す。日用の際、神を本とし儒を翼とし、動靜恭謹、實蹈著實、其の人に接し事を執る、禮節し情厚く、坦坦として餘裕有り。其の生まるるや、葦泥土に晦して厥の根に培い、其の死するや、間韻天に升り、清爽人に降る。眞に為學為己の人か。一世群小に慍まれ、胥以て穀せず、重坎厄會、殆ど厥の半ばに坐す。此も亦章子厚の能く作す所ならんや。嗣子垣守能く其の志を繼ぎ、家聲を墜さず、塵俗に交らず、五十鈴の清流に浴し、神路山の紅錦を裝ひ、美を我が有郷に專にす。幸なるかな、子有ること此の如きを。
家集有り、秦山集と名づく。盈篋四十九卷、繕寫既に成る。僕、師席に陪侍すること、星霜多きを經るを以て、僕をして序の文字を為さしむ。以謂へらく、徒に從遊日久の富實有るも、麗澤時習の得乏しく、其の學脈の旨訣、囊裏底蘊を展べ盡すこと能はず。眼下に玄門を扣き、啓發を賜ひ、教誨諄諄たる其の人の在る有れば、予何ぞ之を憂へん。抑々詩賦は徳の頌なり。言論書説は徳の府なり。將來緗帙を披き、染翰を玩ばば、則ち胸次灑落、風采志氣、隱然として自ずから見るべくして、百年の後論定まらん。誠に速依別觀光の最首なり。暫時管見を以て其の梗槩を識し、以て屬示の責を償はんと云ふ。顧に財かなる老諸生、耄慮易言、卑文小筆、焉んぞ不稱を愧ずること無しと為すべけんや。君請う之を圖れ。
享保戊申二月神吉日
美代重本謹序
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