趙汸『春秋左氏伝補注』十巻

○両江総督採進本

元の趙汸の撰。汸は黄沢の学説を遵守し、春秋の解釈は左氏伝を根本とし、その注は杜預を宗旨とした。左氏伝に論及がない場合は、公羊と穀梁の二伝によって解釈を施し、杜預に論及のない場合は、陳傅良の『左伝章指』によって解釈を施した。本書は傅良の学説によって杜預の『左伝集解』を補ったものである。

本書の主旨はこうである。――杜預は左氏伝に偏り、傅良は穀梁伝に偏っている。もし陳氏の長所を用いて杜氏の短所を補い、公羊伝と穀梁伝の正しい部分を用いて左氏伝の不当な部分を正すなら、相互に欠点を補うことができるだろう。かくすれば春秋の筆削と義例は貫徹し、伝文と注に対する弁別も善を尽くすことができるだろう。ならば杜氏の解釈の補正は左氏伝に対する功績に止まらない。聖人の言外の心もまた明白にすることができるだろう、と。これも春秋学者として公平な議論であろう。

また杜預の『釈例』は、孔穎達が疏に組み入れてからというもの、久しく単行本がなかった。『永楽大典』に掲載された部分も数少ない。ましてや陳傅良の『章指』はほとんど読むことのできぬものである。汸の本書には『釈例』と『章指』が収められ、多少なりともその梗概を残している。これもまた古き学問を研究する学者にとって勇み取るべきものであろう。

『四庫全書総目提要』巻二十八

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