脱税と社會奉仕

高畠素之


名古屋の女富豪坂種子は永年莫大の脱税をしてゐた事が發覺し、一萬數千圓の罰金と三萬幾千圓の追徴金を徴収されることになつた。新聞の傳へるところに依ると、彼女は『全財産千三百萬圓を社會奉仕の爲めに投げ出し、之を財團法人として大に善根を施さう』としてゐたのださうである。

不幸にしてその財團法人の事業が何であるかは知ることが出來なかつたが、恐らく彼女が經營する殖産會社とかを財團法人にするのではなからうか。新聞記事の口吻によると、財團法人の社會奉仕と脱税とが氷炭相容れないものか何かのやうであるが、然し脱税で罰金をとられる位の女であるからこそ、斯う云ふ社會奉仕も考へるのである。

脱税と言へば所得の申告をゴマ化すことだと思ふなどは、血の巡りの惡い人にのみ限られてゐる。近頃の富豪はいろいろの名案を考へてゐるのである。社會奉仕などと云ふ事からが、眉唾ものと思ヘば差支ない今日、財産を財團法人にするなどと云ふことは、脱税手段のうち比較的通俗なものである。

この女長者も今少し巧妙な脱税をやつて居れば、天晴れ善根計り施してゐる事になるのに、申告をゴマ化したり高々財團法人位の智惠しか出ない者だから、すつかりボロを出して了つたのである。之も女賢うして牛賣り損ねた類であらう。


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